聖霊女子短期大学附属高等学校演劇部『オチケン』

  2017年度の東北大会で上演された13本中のうち、大会前にすでに5本を観劇していた。正確に言うと、地区大会や県大会で審査させていただいた、関わりも思い入れも強い作品が並んだ。初見ではない作品を拝見するときは、その上演のみを単独で考えることは難しくて、地区大会や県大会での様子と比較し、そこからどれだけ作品が成熟したか、進化したかという視点で見てしまう。同時に、次の大会に進めなかったそれぞれの地区の参加校の芝居や良かったシーンも思い浮かぶ。今回は改めて、ブロック大会の参加校は、次の大会にコマを進めることのできなかった演劇部の思いも一緒に抱えて舞台に立っているのだということを強く感じた。(県大会も、全国大会もしかり)。

 私は、審査員の一番大切な仕事は講評だと思っている。どんな芝居を作りたかったのかという思いに寄り添い、どうしたらそれがもっと伝わるのかを一緒に考え、伝えるのが講評だと考えている。正しい表現なんてないし、芝居にはこうでなければならないなんていう正解もない。ただ、作り手が伝えたいこと(メッセージとは限らない、表現そのものかもしれない)をちゃんと観客に届けるためには、こういう方法もあるという選択肢を提示する。自分自身がどんな傾向の芝居を作っているかに関係なく、選択肢を幅広く提示できるのが専門審査員の矜持である。審査はダメ出しをする場ではない。

 ブロック大会が終わると、全国大会と春フェスに進めなかった演劇部は、このシーズンのコンクールへの取り組みがひとまず終わる。ここまでがんばってくれていた3年生は、全国大会の出場権を得ても、ここで終わってしまう。最後の上演に際し、最後の上演だからこそ、次につながることばを伝えたい。高校演劇への参加は終わっても、高校時代に出会った「演劇のある人生」はこれからも続くのだから。

 さて、本来であれば、拝見した13本の感想を全部書きたいところなのだが、書きかけのまま雑務に忙殺され、気がつけば2月も1週間近く過ぎようとしているではないか。このままでは、書き終わらないまま4月になってしまうこと必至。どうしても書きたい、書かねばならない聖霊女子短期大学附属高等学校演劇部『オチケン』について、とにかく述べさせていただきたいと思う。

 ご縁があって、秋田中央地区の地区大会を、2015年から3年続けて担当させて頂いている。同じ審査員が続くことのデメリットは、審査傾向を審査員の好みで選出していると誤解されがちなこと。メリットは、生徒が卒業しても続く部活の様子や伝統を長いタームで見て、アドバイスできること。
(私の審査員歴はここに。どの大会で何を講評したか、何を選出して次の大会に送り出したか、恥じないよう記録している。)

 2017年の秋、秋田県児童会館けやきシアターで『オチケン』を拝見したとき、あれ?この作品、知ってる、見たことある、と、思った。全国あちこちで高校演劇を拝見していると、同じ戯曲を上演することは多々あるから(高校演劇スタンダードの『トシドンの放課後』『夏芙蓉』等々)、どこで観たのだっけ・・・と、記憶を辿りながら観劇をしていた。前に拝見した上演より、ずっといい。ものすごくいい。あれ? この子、顔知ってる。っていうか、前に見た『オチケン』に出てたよね? え? 去年の秋田中央地区だったような、うん、そう。え? 同じ学校が、同じ作品で、地区大会に挑戦? 自分が前の年にどんな講評をしたか、話したことのディテールが蘇ってくる。そして、ことごとく、それをクリアして、確実に、作品世界が届くようになっている! 前年度は、その部室にいる女の子たちの対話がきちんとできていることが際立っていたが、全体的に気弱で、パワー不足でもったいなかった。だから、こう申し上げた。
「対話ができているということは、その世界の人間関係を構築できている、ということだから、そのまま突っ走ってください。まるで、あなた方に当て書きされたかのようにぴったりの、キュートなオチケンの世界だから、ここで終わりだと思わないで、あなた方のレパートリーにしてください。落語らしさとか、オチケンらしさも大事だけれど、そこを追求するより、落語ガールズが歌って踊るような、あなた方自身が楽しい世界を思いっきり楽しんでつくって、キラキラはっちゃけてください」というようなことを、申し上げたら、なんと、本当にそういう世界を作り上げて、1年後、地区大会に出てきてくれたのだ。

 うれしかった。高校演劇の審査員を長く担当してきて、今までで一番うれしかった。講評なんてケッと思っている(だろう)演劇部員も多い中、ちゃんと聞いてくれて、ちゃんと伝わった。そして、本当に素晴らしい作品にパワーアップさせて、ちゃんと観客に届くように作り直してくれた。本当にレパートリーにしてくれた。わああ。泣きそうになった。そして、私だけでなく、他の審査員も選んでくださって、見事、県大会に歩を進めた。

 それだけでも十分にうれしかった私は、彼女たちが、県大会の2校に選ばれ、東北大会出場権を得たことを知った。わああああああ。もっとうれしくなった。彼女たちの、あのキラキラを、東北大会の観客たちにも観てもらえる。2年越しの取り組みで、東北大会だ! すごぉい。

 というわけで、私は、2016年の地区大会、2017年の地区大会、2017年の東北大会、と、3回、聖霊女子短期大学附属高等学校演劇部『オチケン』を拝見した。東北大会のときは、もう、審査員の視線でも、顧問の包み込むようなしっかりしたフォローでもなく、親戚のおばちゃんである。よかったよかった。よく来たよく来た。小雨の中、上演が終わったあとの彼女たちに声をかけたとき、もう、なんだかよくわからない泣き虫のおばちゃんの顔は、小雨だか涙だか入り混じった液体で濡れそぼっていたのである。うん、うん、よくやった。おつかれさま。

 『オチケン』は、他校の顧問創作作品である。作家の笠原彰先生は、現在、宮城県石巻北高等学校演劇部顧問。奇しくも、宮城県石巻北高等学校演劇部『父帰る』は、この東北大会に出場しているのだが、上演10。上演11の聖霊女子短期大学附属高等学校演劇部『オチケン』を、お互い部員同士が観られないというアンラッキーな上演順。くじ引きだから仕方ないが、神様は意地悪。

 笠原彰先生にご挨拶できた。2年連続上演許可願いがきたので、不思議だなと思っていた、と。ご自分で演出された初演とは全然違う、聖霊女子短期大学附属高等学校演劇部ならではの上演だった、と、ニコニコしていらした。『父帰る』もお父さんたちがどんどん帰ってくるコメディで、ほろりとさせるラストも含め、なるほど、『オチケン』の作者の作品である。

 聖霊女子短期大学附属高等学校演劇部のみなさん、本当におつかれさまでした。私は、最初の地区大会であきらめてしまわずに、一つの戯曲に取り組み続け、もっと伝わる世界を構築したあなた方の熱意と努力に感動しました。本当にすてきな舞台でした。次のコンクールは違う作品に挑戦すると思いますが、『オチケン』は聖霊女子短期大学附属高等学校演劇部の宝物になったと思います。卒業するあなたも、ずっとその宝物を心の奥にしまって、ときどき取り出して眺めてくださいね。演劇活動を続けるみなさんは、どんどん、宝物を増やしていってくださいね。
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by nabegen-usagian | 2018-02-06 18:56 | THEATRE

劇作家・うさぎ庵主宰・渡辺源四郎商店ドラマターグ工藤千夏のブログです。


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