SARP vol.12関連企画 菊池寛戯曲リーディング

 SARP vol.12『くちきかん』は、菊池寛をモチーフに四国学院大学の学生のために書き下ろした現代劇である。そもそも、主人公はクチキくん。評伝劇とは言い難いうさぎ庵流のねじれた芝居なので、菊池寛をもっとよく知るためにも、菊池寛が書いた戯曲に対峙する機会があった方が良いと考え、この「菊池寛戯曲リーディング」を企画した。

 たとえば、『くちきかん』には以下のようなセリフがある。(ここだけ読むと普通の評伝劇みたいに見えるが)

アクタガワ★だってそうでしょ。クチキが新進作家として文壇的地位を確率したのは、ルミコちゃんが生まれた年だし、そのあとは、「怨讐の彼方に」でしょ?「藤十郎の恋」でしょ? いやぁ、猿之助の「父帰る」、本当によかった。

ナオキアクタガワ、おまえ、泣いてたやん。

アクタガワ泣いてないよ。

ナオキえー、泣いてたやん。

アクタガワああ、泣いたとも。まさか、クチキの芝居で泣くなんて思ってもいなかったよ。

ナオキ新聞小説「真珠夫人」の大ヒットもカネコさんのおかげやな。

カネコだから、私はなんにもしてませんって。


 せっかくの機会だから、こういう芝居の中身を知っている方がいいと思ったのである。『くちきかん』出演者は11名だったので、オーディションを受けにきてくれたすべての学生にSARP vol.12に関わってもらいたいという気持ちもあった。

 公演日程が2017年2月5日から10日の6日間だったので、以下の6作品を日替わりで上演することにした。
『藤十郎の恋』
『屋上の狂人』
『真似』
『時勢は移る』
『海の勇者』
『父帰る』
 菊池寛は多作で、そのジャンルも幅広い。『怨讐の彼方に』は諸事情で断念した。せっかく香川でパフォーミングアーツを学んでいるのだから、今後も他の戯曲リーディングや上演に挑戦してもらえたらうれしい。ちゃんと読んでみると、菊池寛はなかなかに面白いのである。


『藤十郎の恋』
1919年初演。元禄時代の実在の歌舞伎役者坂田藤十郎が主人公。芸を磨くための偽りの恋の顛末は・・・。再発見された幻の初期戯曲、小説、森田痴雪による潤色台本、潤色を元に菊池本人が再執筆した戯曲(本篇)の4種類がある。

<出演>千田萌 森田恭矢 青木奈緒 宇垣一茂 池瑞樹 野久保美紅 山内せれい 山地彩 大森那津実 竹葉香里 中村歩実 ※『藤十郎の恋』に出演予定だった青木奈緒は、健康上の理由により降板、中村歩実が代読しました。

<演出コメント>出演者も多く、今回一番手強かった戯曲。今回の稽古期間では、歌舞伎のバックステージものを演じるための引き出しのなさを克服することはできなかった。花組芝居で上演してくれないかなぁ。想像して、一人でゾクゾクしている。

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『屋上の狂人』2/6
1916年5月『新思潮』に発表、21年帝国劇場で14世守田勘弥、2世市川猿之助らが初演。人間の幸不幸を主観で捉え直そうという、菊池寛テーマ戯曲の代表作。

<出演> 池田友里 近藤丈雅 谷口継夏 山地彩 大森那津実 氏原恭子 三好樹里香 ※『屋上の狂人』に出演予定だった柿岡唯、森田恭矢は、健康上の理由により降板、代わりに氏原恭子、橋本潤が出演しました。

<演出コメント>「脚立」を使用するというワン・アイディア。高さと屋根イメージの三角ビジュアルで、作品世界への到達度がぐっと上がった。心を病んだ家族にどう対応するかという話なのに、驚くほどユーモラスでポジティブ。その前向きさと明るさが伝わるように。

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『真似』2/7
フランシスコ修道会を創設したアッシジの聖フランチェスコを題材にした作品。信仰とは?人間の欲望とは?救いとは?1924年「新潮」1月号に発表。大正期に人気のあった切支丹物の系譜の作品。

<出演>内田沙也加 青田夏海 荒川真由 高橋なつみ 白石桃菜 中村歩実

<演出コメント>外国を舞台にした宗教劇。寓話的色彩を強く打ち出し、描かれている宗教観とピュアさをカリカチュアするために、あえて、「なんちゃって人形劇」に作る。女性だけのチームだったので、とにかく、かわいらしく。

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『時勢は移る』2/8
激動の幕末、武士たちの生き方を変える流れは、ある父と子に対立をもたらし・・・。菊池寛は三幕構成で時勢の推移を描きたかったが、序幕のみを一幕物として完成させ、1922年発表。1924年上演。

<出演>内田沙也加 千田萌 近藤丈雅 橋本潤 西原侑呂 藤本紗綾

<演出コメント>バリバリの時代劇。小細工せずに、ラジオドラマのようにしっかりと読み込んでもらった。中年の年齢の役は、その年らしく演じることより、その人物の気持ち優先でつくる。難しい長ゼリフも多いが、緊張感のあるシーンもきちんと緊迫。

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『海の勇者』2/9
京都帝国大学卒業後の1916年7月『新思潮』に発表。土佐にある小さな漁村。嵐の夜、難破しそうな船の情報が入る。かつて、難破船を助けるために長兄を失くしたその家では・・・。

<出演>青木奈緒 宇垣一茂 氏原恭子 池田友里 野久保美紅 鉢峯輝敏 山内せれい

<演出コメント>長男をすでになくしている母親の悲しみと、それでも生きていくための強さは、明るさに裏打ちされている。笑いながらセリフを言ってとか、漫才みたいにやりとりして、とか演出しながら、スピーディにクライマックスの嵐に持っていく。

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『父帰る』2/10
時は明治40年頃。家族を捨てて出奔していた父が、20年ぶりに戻ってきた・・・。1917年に発表されたのち、1920年に2代目市川猿之助が演じて絶賛され、菊池寛の代表作となる。

<出演>松田諭人 伊藤快成 山川香菜 横山智恵里 白井誠也 田中千晶

<演出コメント>ご存知!父帰る、なのだが、意外とディテールは知られていない。しっかり会話をきかせるために、細かく心理描写を。そのために「家に帰る」「家から外に出る」「玄関で話す」をしっかりビジュアルで見せる。弟が帰ってくる、妹が帰ってくる、そして、20年ぶりの父親が帰ってくるという戯曲上の三段階の積み重ねを、動きつきで。結果的に6作品で一番動きのある演出になった。

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ラップ外郎売
キャストの入退場のBGMに「ラップ外郎売」(作曲・歌:高坂明生)をかける。そもそもは、渡辺源四郎商店の「オトナの高校演劇祭」のテーマソング。大学生の俳優が、菊池寛の古典戯曲に取り組む企画なのでぴったりだと思ったのだ。ト書きを読む俳優が「幕」と言った途端に、この音楽が入る。ぬるぬるしないで、さくっとおじぎをして、スタスタ退場する。良い。ノトススタジオに毎日アキオの歌が流れている、というのも、ちょっと不思議で、良い。
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by nabegen-usagian | 2017-02-13 02:47 | THEATRE

劇作家・うさぎ庵主宰・渡辺源四郎商店ドラマターグ工藤千夏のブログです。


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